小 熊 座 句集 『瀬頭』抄 佐藤 鬼房
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         句集 『瀬頭へ』抄 (自選句) 平成元年〜平成3年 佐藤 鬼房




         いつまでも在る病人の寒卵

         地吹雪の棚田もつとも鏤刻の相
 
         天児(あまがつ)や向きの決まらぬ雪解風

         古草を毟るなさもしすぎるゆゑ

         田楽のあばたに話かけてゐる

         鳥帰る無辺の光追ひながら

         ひめむかしよもぎや稚児の金産毛

         首根つこ押へて息をつぐ晩夏

         露けさの千里を走りたく思ふ

         幼霊の遊ぶ声して小滝壺

         山寺の博奕岩(ばくちいわ)とや赤とんぼ

         月山遥か岩の裂け目の曼珠沙華

         蓑虫に微笑三分の夕日影

         遠くあるものは遠くに水の澄み

         暖冬の便座毛羽立つさまに見ゆ

         大年の夕空晴れて空邃きかな

         ブルートレーンのスパークをあびしろながす
         長距離寝台列車のスパークを浴び白長須鯨

         若しかして曙の精弥生妻

         幻を食ひ尽したるわが半旗

         やませ来るいたちのやうにしなやかに

         やませ吹くこの世の虚実削ぎたてて

         水飲んで首のばしたる羽抜鶏

         蒲の穂や醜い家鴨など居るらぬ

         星雲の暗きところに西瓜種子
 
         白桃を食ふほの紅きところより

         秋草のいづれの草か日暮呼ぶ

         老残や年年海の遠くなり

         咳きこんで耳柔の熱しや赤と黒

         がらくたの余生の冬と思ヘリき

         繭ごもるものよ楢山淑気満つ

         みちのくほ底知れぬ国大熊(おやぢ)生く

         みちのくのここは日溜雪溜

         寒春光瀬頭の渦衰へず

         春蘭に木もれ陽斯かる愛もあり

         大滝に女滝が添ひて暖かし

         卯月野に笑って沈む明日(あした)の陽

         羽抜鶏胸の熱くてうづくまる
 
         鶺鴒二羽降り象型の滑り台

         鳥羽僧正紅稟明りを来つつあり

         残る虫暗闇を食ひちぎりゐる

         翼あるものを休ませ冬干潟
  
         水付(つ)いて舞ふこともなき落葉かな

         いくつもの病掻きわけおでん食ふ

         除夜の湯に有難くこはりそこねたる

         おろかゆえおのれを愛す桐の花





  
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